このコンテストをきっかけに、スワヒリ語を使った仕事を度々受けるようになった。私がコンテストに出場した事はあまり人に話していなかったので、結果を知って仕事を紹介してくれたわけではなさそうだったが、帰国してからアフリカ系のイベントやコミュニティーに度々顔を出すようになり、スワヒリ語といえば可奈子というように、周囲の人々に知れ渡っていたようだった。BSで放送されたケニア人コメディアンのコント映像の翻訳、アフリカ系イベントでタンザニア大使の通訳、テレビ番組ロケでマサイ族が来日した時の通訳、スワヒリ語の個人指導等々、まだまだ未熟な私だが、これはかなり自分を成長させてもらえる機会だと思い、断らずに全てを引き受けた。
中でも一番大変だったのは、コントの翻訳だ。送られてきたデモテープに入っている全ての台詞を翻訳し、何分何秒で誰がそれを発言したかも記録しなければならなかった。日本でも同じだが、コメディアンはテンポが速い上に、話が急に飛ぶ。更に、ケニアは多民族国家なので部族語や若者特有の話し言葉が混入している。この仕事はクライアントの依頼がかなり遅かったため、私に依頼された時点で締め切りまで3日しかなかった。わずか3分のコントが5本だけだったが、一日中、寝る間も惜しんで取り組んだ。こんなにテレビで映像を見続けたのは生まれて初めてだった。締め切りが迫ってくる緊迫感、代理店からまだですかと催促の電話がかかってくる度に、自分のレベルの低さを実感した。しかしこの仕事が終わった時は、言葉にできない満足感があった。その半面、今後、スワヒリ語を使う仕事に携わるならば、もっと勉強をしなければならないと痛感した。
この様なスワヒリ語を使った活動のほかに、私はAnyango with Nyatiti Warembo!! というグループに属し、ケニアの伝統芸能を伝える活動もしている。グループは2006年の10月に結成され、ケニアルオー族のニャティティという伝統弦楽器の、世界初の女性奏者として活躍しているリーダーと、ダンサー3人、コーラス1人の計5人で構成されている。メンバー全員同時期にケニアに行っており、ケニアで出会った日本人の仲間たちだ。全員が帰国し、グループを組んで日本を熱くさせようということで活動を始めた。
私たちの活動に制約はない。話が入れば、どんな所でもどこまでも行く。最初はアフリカ系のレストランやバーでイベント的な活動をしていた。小さな場所でも広い場所でも会場をアフリカンな雰囲気に持っていき、会場の反応も非常によく、達成感に満たされる。最初の大舞台は、『アフリカの明日をつくる、WFPのごはん』という、世界食糧機構のイベントの開会式だった。
アフリカのイメージは飢餓・難民・紛争等の暗いものが多いので、WFPの職員がどうにか明るいイメージにしたいと必死に検索したところ、私たちを探し当てたらしい。青山の国連大学で、アフリカ各国の大使が出席し、テレビカメラが向けられ、WFP本部のローマ局長も見守る前でパフォーマンスをした。それからは高校や小学校、幼稚園の国際理解教室に呼ばれ、写真を使ったスライドショーで現地の生活を紹介したり、歌やダンス、アフリカのリズムを教えたり、教育現場にも活動の幅を広げていった。それだけではなく、ケニア大使館でダンス教室を開き、一般の人にダンスや歌を知ってもらうためにワークショップも行った。その他、アジア最大級の広さを持つ浜松楽器博物館でショーを行い、NHKスワヒリ語ラジオの出演、外務省主催の年に1度行われるアフリカンフェスタの舞台でもパフォーマンスをした。幸いにしてケニア大使にも気に入っていただくことができ、JATA世界旅行博や、ケニア独立記念パーティーにも招待していただき、最近はケニア大使館で何らかのイベントがあると、ケニアのアピールのためにパフォーマンスをしてくれとの依頼を受けるようになった。
私はケニアに滞在し、関心あることに臆せず貪欲にチャレンジした結果、将来への漠然としたイメージはより現実味を帯びて開かれ、今後の道も少しずつではあるが、固まってきたと実感している。幼い頃からの「現地で何かしたい」という夢の土台は着実に築き始められていると確信している。この間の体験で、自分の置かれている環境の有難さに気付くこともできた。勉強したくてもできない子供をたくさん見てきた。その子たちの分まで学ばなければならない、と偽りなく思った。帰国後は、授業を5列目以内で受ける様になった。その他にも日本では知ることのできない多くのことを学んだ。今後の目標は、アフリカで得た知識や体験、事実を伝える事だ。音楽やダンス、メディアを通して、日本の人々が少しでもアフリカに関心を持ってくれたら良いと思う。私の将来の夢は、アフリカ・ケニアと日本の架け橋的存在になることだ。その為にさらに勉強に励んで知識を身につけ、あらゆることに前向きに取り組んで行こうと思っている。
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